『長いお別れ』という小説をご存知でしょうか?
お酒、特にカクテルを勉強していると必ず一度は名前を見ると思います。
というのも、作中に出てくる「ギムレットには早すぎる」というセリフが有名で、この小説のヒットをきっかけにギムレットは世界的に人気なカクテルとなった背景があります。
ただ、この小説は約600ページに及ぶ長編小説で、なおかつ海外文学独特の言い回しが日本人にとって理解しにくいところもあり、普段から本を読み慣れていないと正直読破するのがきつい。
そこで今回の記事では、小説『長いお別れ』に出てくるお酒に関するシーンを抜き出して解説します。
[こんな人におすすめ]
- 本を読むのが苦手
- BARで語られて困っている
- 酒場で使えるキザなセリフを知りたい
- 長いお別れ(The Long Goodbye)/レイモンド•チャンドラー
- あらすじ
- お酒のシーン
- P33,7行目「本当のギムレット」
- P39,4行目「夕方のバー」
- P46,11行目「オールドグランダッド」
- P100,11行目「収監中の人間に酒を勧めること」
- P134,15行目「レノックスからの手紙」
- P139,9行目「哀れな男」
- P144,4行目「緑色の飲み物とジン&オレンジ」
- P157,12行目「代わりにマティーニ」
- P170,1行目「フィッツジェラルド」
- P217,3行目「ルーディーズ•バーベキュー」
- P251,10行目「ヴィクターズでギムレット」
- P293,7行目「一家に一人の酔っぱらい」
- P334,9行目「ウェイド宅で」
- P380,3行目「アル中のコーク」
- P386,14行目「ウイスキーはありません」
- P387,18行目「ウイスキーはきれいだよな」
- P432,4行目「スウェーデン製のブラウンビール」
- P454,7行目「アモンティリャードとライウイスキーサワー」
- P462,1行目「瓶詰めの刺激」
- P472,10行目「スコッチをストレートでたっぷりと」
- P475,11行目「バーボン•オンザロック」
- P525,1行目「ビターを二滴」
- P560,11行目「君のために」
- P563,2行目「シャンパンを飲み交わす」
- P586,3行目「ギムレットには早すぎる」
- まとめ:村上春樹 訳 おすすめ!
長いお別れ(The Long Goodbye)/レイモンド•チャンドラー
邦題 | 長いお別れ |
原題 | The Long Goodbye(ロンググッドバイ) |
作者 | レイモンド•チャンドラー |
刊行 | 1953年 |
ジャンル | ハードボイルド、探偵小説 |
出版文庫/訳者(発行年) | ハヤカワミステリ文庫/村上春樹(2010) ハヤカワミステリ文庫/清水俊二(1976) |
『長いお別れ』は、1953年に刊行されたアメリカの作家レイモンド•チャンドラーのハードボイルド小説。原題は『The Long Goodbye(ロンググッドバイ)』
「ギムレットには早すぎる」「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ」などの名台詞があり、特にギムレットは主人公と友人がたびたびBARで飲むカクテルで、重要な伏線となる。
ギムレットをはじめ、様々なお酒やコーヒーを飲むシーンが随所に現れます。
読んでいると、こちらもお酒やコーヒーを飲みたくなる小説ですね!
チャンドラーは、アメリカ シカゴ生まれの作家で、私立探偵フィリップ•マーロウを主人公とした探偵小説シリーズで有名になった。
その他の代表作には『大いなる眠り』『さらば愛しき女よ』などがあり、どちらもフィリップ•マーロウを主人公とする作品である。
シリーズ第6作にあたる『長いお別れ』は、ハードボイルド小説の定番形式を作り出した作品でもあり、その形式は現代でも一般的に浸透している。
また、アメリカでは1973年に映画化、日本では2014年に日本を舞台にアレンジしたテレビドラマが放送された。
※映画やドラマは、動画配信サービスU-NEXTで視聴できます!
>>ロング・グッドバイ(洋画/1973)
>>ロング・グッドバイ(国内ドラマ/2014)
あらすじ
主人公は、私立探偵のフィリップ•マーロウ。
ある時マーロウは、テリー•レノックスという男と出会う。
二人はたびたびBARに行って酒を飲む仲になっていくが、レノックスは急にメキシコに行くと言い出し空港まで送ることになる。
マーロウが帰宅すると、警察が待っていた。レノックスは自身の妻を殺した容疑がかかり捜索されていた。
マーロウは、逃亡を援助したとして逮捕されるが、黙秘を貫く。
3日目に事態は一転し、レノックスが全てを告白した文書を残して自殺したという情報が入る。
マーロウは解放された。自宅に戻るとレノックスから「ギムレットを飲んで、事件も僕のことも忘れて欲しい」という手紙が届いていた。
事件は全て収束したように思えたが、マーロウにはまだ気に掛かることがあった。
レノックスが殺人を犯したことも、自殺したことも信じられなかったのだ。
しばらくして、失踪した人気作家ロジャー•ウェイドの捜索依頼を受ける。
依頼主であるロジャーの妻アイリーンは、どうやらレノックスの事をよく知っているようだった•••。
お酒のシーン
ここからはお酒の出てくるシーンを抜粋して解説します。
※引用:ロング•グッドバイ 村上春樹 訳(ハヤカワミステリ文庫)
商品リンク→ロング・グッドバイ フィリップ・マーロウ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
P33,7行目「本当のギムレット」
我々は<ヴィクターズ>のバーの隅に腰掛けてギムレットを飲んだ。
「こっちには本当のギムレットの作り方を知っている人間はいない。ライムかレモンのジュースとジンを混ぜて、そこに砂糖をちょいと加えてビターをたらせば、ギムレットができると思っている。」
ヴィクターズとは、マーロウとレノックスがよく一緒に飲んでいたBARの名前。
イギリスに住んでいたレノックスが、アメリカのギムレットに苦言を呈する有名なシーン。
レノックスはこだわりのレシピとして以下のように説明している。
「本当のギムレットというのは、ジンを半分とローズ社のライムジュースを半分混ぜるんだ。それだけ。」
「ローズ社のライムジュース」というのは、実在するローズ社の製品ライムジュースコーディアルのことと言われている。
ジュース(果汁)というよりはシロップに近く、
現代の一般的なギムレットと比較すると甘口すぎる気がする。
P39,4行目「夕方のバー」
「夕方、開店したばかりのバーが好きだ。店の中の空気もまだ涼しくきれいで、すべてが輝いている(中略)
バーテンダーがその日の最初のカクテルを作り、まっさらなコースターに載せる。しんとしたバーで味わう最初の静かなカクテルーー何ものにも代えがたい」
レノックスがマーロウに語るBARの魅力。ちなみにこの時の時刻は午後4時頃。
開店直後のBARが好きな常連様はたしかに多かった。
「アルコールは恋に似ている。最初のキスは魔法のようだ。二度目で心を通わせる。そして三度目は決まりごとになる」
かなりキザな台詞だが、妙に納得してしまった。
何事も一番はじめの記憶が強く美しい。
P46,11行目「オールドグランダッド」
テリーが私のあとを追ってキッチンに姿を見せていた。(中略)
身体は相変わらずぶるぶる震えていた。私はオールドグランダッドのボトルを棚から出して、大きなグラスに一口ぶん注いでやった。
久しぶりに会ったレノックスは、疲れ果てているようだった。
マーロウはぶるぶる震えているレノックスに、体を温めるウイスキーを渡す。
アルコールは本来身体を冷ましてしまうものなので、真似することは勧めません。
オールドグランダッドは、アメリカのバーボンウイスキー。
バーボンの先駆者でもあるベイゼル•ヘイデン氏が創立したバーボンで、彼の孫の代で「オールドグランダッド(おじいちゃん)」と名付けられた。
P100,11行目「収監中の人間に酒を勧めること」
「一杯やりたくなった。」(中略)机の引き出しを開け、瓶とショットグラスをひとつ取り出した。グラスの縁までなみなみとウイスキーを注ぎ、一息でぐっと飲み干した。(中略)「すまないが、収監中の人間に酒を勧めることは禁じられているんでね」
検事グレンツが、逮捕され収監中のマーロウに事情聴取するシーン。
嫌味でもあり、ストレスにまみれて仕事をする検事への皮肉とも受け取れる。
P134,15行目「レノックスからの手紙」
事件のことも僕のことも忘れてほしい。ただその前に<ヴィクターズ>に行ってギムレットを一杯注文してくれ。そして今度コーヒーを作るときに僕のぶんを一杯カップに注いで、バーボンをちょびっと加えてくれ。(中略)
そのあとで何もかもを忘れてもらいたい。テリー•レノックスはこれにて退場だ。さよなら。
レノックスが自殺する直前にマーロウに宛てて出した手紙の一部。
部屋でこの手紙を読んだマーロウは、すぐにコーヒーを淹れて頼まれたようにした。しかし<ヴィクターズ>に行くのは、だいぶ後の事になる。
コーヒーにお酒を入れるカクテルは実際に存在する。
有名なのは、アイリッシュウイスキーを加えるアイリッシュコーヒーだろう。
ウイスキーがバーボンの場合「ケンタッキーコーヒー」とでも呼ぶのだろうか。
あまり一般的ではないが、悪くない組み合わせだと思う。
P139,9行目「哀れな男」
バーのスツールには哀れな男が一人座り、バーテンダーに話しかけていた。(中略)
しゃべることに夢中だった。本当はしゃべりたくなんかなかったのかもしれないが、とにかく話が止まらない。(中略)
静かなバーにはこの手の哀れな男が必ず一人はいる。世界中どこだって同じだ。
依頼人とBARで待ち合わせた際の店内の様子。
なんか分かる気がする。それと同時に自分が”哀れな男”になってたであろう瞬間も思い出し、少し恥ずかしくなった。
P144,4行目「緑色の飲み物とジン&オレンジ」
ウェイターは夢の(ようにキレイな)女の前に背の高い緑色の飲み物を置き、一歩後ろに下がった。
待ち合わせた依頼人と会った時の店内の様子。
作中ではっきりとは明かされないが、これはギムレットだったのではないかと思う。
それもローズ社のライムジュースを使った、着色の濃いギムレットだ。
「私はジン&オレンジに目がないのです。愚かしい飲み物ですが、おつきあい願えますか?」
仕事の依頼人である出版社の編集者 スペンサーがマーロウに勧める。
BARで同じ飲み物を飲んでいる人と出会うと、たとえ顔見知りでなくてもとても親近感がわく。
このシーンでは依頼人の勧めのせいで、美女との接点を逃したことになる。
P157,12行目「代わりにマティーニ」
私はオフィスのドアを閉め、<ヴィクターズ>に向かいかけた。テリーが手紙に書いてきたとおり、そこでギムレットを飲もうかと思ったのだ。(中略)かわりに<ローリーズ>に行ってマティーニを飲み(以下略)
スペンサーの依頼を断り、オフィスを後にしたマーロウ。
レノックスを思ってギムレットを飲むということは、最後のお別れを示唆しているのだろうか。
代わりに同じジンベースのカクテル マティーニを飲んでいる。
マティーニとギムレットは、ジンベースカクテルの定番中の定番。
どちらも辛口で、アルコールの強いショートカクテルです。
P170,1行目「フィッツジェラルド」
「ただ気取っているだけだと思います。彼は昔からスコット•フィッツジェラルドのファンなのです。フィッツジェラルドはコールリッジ以来、最高の酔っぱらい作家だと言っています」
ロジャー•ウェイドのメモ書きに、自身をフィッツジェラルドと名乗るものが発見された。
スコット•フィッツジェラルド(1896〜1940)は、代表作『グレート•ギャツビー』などを書いた実在する作家。
社会情勢と妻の精神疾患が重なり、晩年アルコール依存症に悩まされた作家として知られている。
グレート•ギャツビーも村上春樹•訳で出ていますね!
>>グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)
P217,3行目「ルーディーズ•バーベキュー」
私も店仕舞いすることにした。車でラシエナガの<ルーディーズ•バーベキュー>に行った。(中略)バーのスツールでウイスキーサワーを飲み(中略)ルディーの「世界的に有名な」ソールズベリ•ステーキを味わった。
ルーディーズは、実在するテキサスBBQのお店のようだ。
ソールズベリー•ステーキは、ハンバーグのような肉料理。
ウイスキーサワーの”サワー”は炭酸を意味しているわけではない。
本来のサワー(sour)は「酸味、酸っぱい」という意味。
場合によっては、炭酸水を少量加えたり、卵白を一緒にシェークしてまろやかに仕上げたレシピもあります。
P251,10行目「ヴィクターズでギムレット」
「ギムレット」と私は言った。「ビターは抜きで」(中略)
「実はですね、この前の夜、あなたとお友だちが話されているのを耳にはさみまして、ローズのライムジュースを一本仕入れておいたんですよ。」
レノックスからの手紙が届いてから初めてヴィクターズに来たシーン。
話の聞こえたバーテンダーが、レノックスこだわりのギムレットをつくれるように準備していた。
常連様の好みに合わせて仕入れるバーテンダー、偉い!
なんて健気なんだ。
「そんなものを頼む人、こちらではあまりいないようね」と彼女は言った。(中略)
「そのライムジュース。英国独特のものよ」(中略)バーテンダーは私の前に飲み物を置いた。ライムジュースのおかげで緑色と黄色が淡くかかった靄のような色をしていた。
BARで同じものを頼んでいた女性がいた。それも珍しいカクテルを。
話を聞くと、彼女(リンダ•ローリング)はレノックスを知っているそうだが•••。
生のライム果汁とライムコーディアルでは色合いが変わる。
前者はほぼ白色で、後者は緑っぽく着色される。
P293,7行目「一家に一人の酔っぱらい」
「セニョール、まだ酒がたっぷり一杯分残っています。捨ててしまうのは惜しい」(中略)「私は酒が好きではない。グラス一杯のビールが限度です」(中略)「一家に一人の酔っぱらいで十分」
ロジャー•ウェイド(アルコール中毒の作家)の使用人が放つ台詞。
酔っぱらいは一家に一人で十分だが、その酔っぱらいは寂しい思いをするだろうなあ。
P334,9行目「ウェイド宅で」
私は急いで階段を下り、書斎に足を踏み入れた。スコッチの瓶を手に取り、そのままぐいと一息に飲んだ。息が切れるところまで飲んで壁にもたれかかり、荒く呼吸しながら、酒が私の内側を焼いていく感触を味わった。そしてアルコールの蒸気が意識に届くのを待った。
アイリーンに誘惑されるところを使用人に見られたマーロウが取る行動。
マーロウはこのまま眠りにつき、何事もなく朝を向かえる。
一見取り乱したような行動は、時に冷静さを保つのに必要なのかもしれない。
P380,3行目「アル中のコーク」
「来てくれてありがとう、マーロウ。飲むかい?」深酒をする人間に酒を勧められたときに人が浮かべる特有の表情が、私の顔に浮かんだ。(中略)「僕はコークを飲む」と彼は言った。「回復が早いようだね。今は酒を飲みたい気分じゃない。私もコークをいただこう」
アル中を自覚し、克服しようと勤めるロジャー。
休肝日としてコーラを飲むのもたまには良いかもしれない。
酒を勧められても、信用できる人と信用できない人がいる。
バーテンダーは前者でありたいものだ。
P386,14行目「ウイスキーはありません」
「ビールを開けますか、ボス?」と彼はウェイドの背中に声をかけた。「ウイスキーのボトルを持ってこい」とウェイドは振り向かずに言った。
「すみません、ボス。ウイスキーはありません」ウェイドは振り向いて彼に罵声を浴びせた。しかしキャンディー(使用人)はひるまなかった。
アル中作家のロジャー•ウェイドが強い酒を飲もうとする場面。
すべて主人の言う通りにすることが、果たして忠誠なのか考えさせられる。
使用人はロジャー(ボス)を思うからこそ「ウイスキーはありません」と嘘をついたのだろう。
P387,18行目「ウイスキーはきれいだよな」
「ウイスキーの色はきれいだよな。黄金色の洪水に溺れるのも悪くはない」
自分で持ってきたウイスキーを手に、ロジャーはつぶやく。
”黄金色の洪水”は、酔い潰れるということだろう。
同じ酒好きとして、しんみりくるシーン。
アルコール中毒の人だって、本当の意味でもお酒を愛しているのかもしれない。
P432,4行目「スウェーデン製のブラウンビール」
スウェーデン製のブラウンビールはマティーニのようにきりきりしていた。
このシーンに出てくるスウェーデン製のビールは「エリクスバーグ(Eriksberg)」ではないだろうか。
はっきりした苦味が特徴の、色の濃いラガービールだそうだ。醸造所は1864年設立のため年代も合う。
1993年 デンマークのカールスバーグに吸収合併され、現在も販売されているそうだ。
日本での取り扱いは見つからなかった。
>>カールスバーグ•スウェーデンHP(スウェーデン語サイト)
P454,7行目「アモンティリャードとライウイスキーサワー」
「アモンティラードを私はいただこう。夏のカリフォルニアは酒を飲むのに適した土地柄ではありません。ニューヨークではここの四倍の量の酒が飲めるし、それでいて二日酔いは半分ですむ」
「私はライウイスキーサワーを」
マーロウとスペンサー(編集者)が、事件の真相に迫るシーン。
アモンティラード(アモンティリャード)は、熟成されたシェリー酒(ワインの一種)。
これまでの作中では、ビールやカクテルは社交の一環、ウイスキーは酔いたい時の酒といった立ち位置だった。
ここでのワインは、酔っ払うわけにはいかないといった意思表示だろうか。
一方ライウイスキーも、ライ麦主体で風味の軽いウイスキー。同じく酔う気分ではないという意味だろう。
>>ウイスキーサワーのレシピ(ページ内リンク)
P462,1行目「瓶詰めの刺激」
作家には刺激が必要なんだ。それも瓶詰めじゃない類の刺激がね。
ロジャーの住んでいた高級住宅地を指してマーロウがいう台詞。
瓶詰めの刺激とは、間違いなく酒のことだろう。
ロジャーは別の刺激がある街に住んでいたらアルコール中毒にはならなかったのかもしれない。
P472,10行目「スコッチをストレートでたっぷりと」
「一杯やりたくなった。ひどく酒が飲みたい。」(中略)「スコッチをストレートで。たっぷりと」
事件の真相に迫るシーンでスペンサーが発する台詞。
予想だにしなかった事実に戸惑いを隠せない様子。
マーロウも酒を勧められるが、この時点では断っている。
読んでるこちらもドキドキしてくるから、グラスを片手に読むといい。
P475,11行目「バーボン•オンザロック」
「あんたは疲れている、アミーゴ。酒を作ろうか?」
「バーボンのオンザロックをもらおう」
すべての推理を披露したマーロウに、使用人が声をかける。
ひと仕事終えた後のバーボンは実に旨いことだろう。
P525,1行目「ビターを二滴」
私は車に乗って<ヴィクターズ>まで行った。そこでのんびりギムレットを飲みながら(中略)「ビターを少し垂らしますか?」「いつもは入れないんだが、今日は二滴ばかり入れてもらおう」
真相が書かれた夕刊をBARで待つシーン。
P560,11行目「君のために」
「シャンパンはいかがかな。アイスバケツの用意はないが、よく冷えているよ。二年ほど前からずっととってあるからね。コルドンルージュが二本。悪くないものだ。とりたててシャンパンに詳しいわけじゃないが」
「何のためにとっておいたの?」「君のために」
レノックスの義姉にあたるリンダと二人でシャンパンを開けるマーロウ。
この二人に愛はなく、この日を境にもう会うことはなかった。
「何のため?」「君のため」はいつか使ってみたい台詞。
スッと出るキザな台詞は勉強になるね(何の)
P563,2行目「シャンパンを飲み交わす」
「気持ちよくシャンパンを飲み交わすくらいはできるだろう。シャンパンを飲んで男に口説き落とされてどうのこうのなんて、いったいなんでそんな下らない話を持ち出さなくちゃいけない」
マーロウがリンダに対して声を荒げるシーン。
男女がともに酒を飲むと、大概その後を期待してしまう。客観的にも主観的にも。
しかし、そんなことは考えず、ただただ楽しく飲むこともできるはず。
巷では”男女の友情”と呼ばれるものにぶつかるマーロウ。
人間の普遍的な悩みのひとつを問題提起したシーンだと思う。
P586,3行目「ギムレットには早すぎる」
彼は手を伸ばして、サングラスを外した。瞳の色だけは変えられない。「ギムレットを飲むには少し早すぎるね」と彼は言った。
本作で最も有名な台詞は、ラストの15ページでようやく出てくる。
マーロウの台詞と思われがちだが、正確にはレノックスの台詞。
このシーンは金曜日の朝。
「ギムレットを飲むには(時間が)早すぎる」と解釈されるのが一般的だが、むしろ「(レノックスの死を弔うには)早すぎるね」といった意味ではないだろうか。
若手バーテンダーに向かって「ギムレットには(技術が足りなくて)早すぎる」というそこの諸兄、性格悪いぞ!(言っちゃった笑)
まとめ:村上春樹 訳 おすすめ!
この記事では、小説『長いお別れ』のお酒が出るシーンを解説しました。
今回、私が読んだのは、村上春樹さんが翻訳した『ロンググッドバイ/ハヤカワミステリ文庫』です。
文庫本にしては分厚くて威圧感がありますが、最後の100ページ程で一気に真相が暴かれる爽快感があります。(その分、前半は事件が乱立する感があり、ややダラける印象です。)
時間に余裕がある際には、酒場の教養としてぜひ一度目を通してみてください!
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