バーテンダーをやっているとお客さんからよく言われるセリフがあります。
「覚えててくれたんですか!?」
「記憶力いいですね!!」
2回目に来てくれたお客さんに対して「〇〇さん!いらっしゃいませ」と名前を覚えていたり、前回飲んでいたお酒を覚えていて「今日も□□ですか?」なんて時に言われます。
「お客様との素敵な思い出を忘れるわけないじゃないですかー」
と、夢を壊さないためにその場では言いますが、
実はバーテンダーは、お客さんの顔と名前は一致しないことの方が多いのです。
※流石に毎週通ってくれるような常連さんは覚えますよ!笑
特に私は、お客さんの顔を覚えるのが苦手で、
常連さんに対しても、髪型を変えた時など常連さんだと判別がつかずポカーンとしてしまうことがありました。
そんな時に「覚えてますか?」なんて言われると心臓に悪いことこの上なしです 笑
私にとって人の顔を覚えられない事は「元々友だちも多い方じゃなかったし、人を覚える容量が育たなかったのかな」と、コンプレックスと結びついて余計に苦しいものになっていきました。
お客さんからしても、前回接客してくれたバーテンダーが自分のことを覚えていない様子だと少し残念な気持ちになってしまいますよね。
今回の記事では、人の顔を覚えるのが苦手な人がバーテンダーとしてやっていくためにどのような対策ができるのか、
店舗に所属していた当時、系列店の3人の店長にアドバイスを求めた話を書きます。
店長たちからは三者三様の回答が出ました。
皆さんはどの方法がイチバン自分に合っていそうでしょうか?
この記事を参考にして、人の顔を覚えられないコンプレックスを抱えている人が少しでもラクになってくれたら幸いです。
相貌失認(失顔症)について
まず初めに相貌失認(そうぼうしつにん)について軽く触れておきます。
相貌失認(もしくは失顔症)とは、脳の障害により顔を見ても表情や個人の識別ができなくなる症状のことです。
100人に1人の発症率と言われ、ハリウッド俳優のブラッド•ピットも自身が相貌失認だと告白したそうです。
日常生活への影響としては、まさしく接客業において何度も来ているお客さんを覚えられない事などがあります。
症状が重たい場合、家族の顔も覚えられなくなるそうです。
また、ドラマや漫画のキャラクターも覚えられず、そのつど巻き戻さないと「突然出てきたこのキャラは誰だ」となることもあります。
私は相貌失認という診断を受けたわけではありませんが、お客さんの顔を覚えるのが苦手だったり、漫画のキャラがわからなくなったりします。
自身が顔を覚えるのが得意でも、こういった症状に悩む人もいるという事を理解して、
たとえ自分が覚えられていなくても優しい気持ちでいられるような世界にしたいですね。
相貌失認の診断を受けた方は、もしかしたらこの記事とは別のアプローチが必要かもしれません。
顔を覚えるのが苦手な人は、まずは簡単なことからチャレンジしてみて、あまりにも辛いようなら一度診断を受けてみるのもいいかもしれませんね。
ここからは、私が系列店の店長から受けたアドバイスを順にご紹介します。
1人目 覚えるのが得意なA店長
1人目は系列店Aの店長。
A店長は系列スタッフの中でも飛び抜けて記憶力がよかった。
私が系列店Aに飲みに行った際「誕生日近いよね」という話から、私の誕生日を日付までしっかりと言い当てた。
それだけでなく、カウンターにいた常連と思われるお客さん6人全員の誕生日もしっかりと言い当てた。
顔と名前だけに留まらず、誕生日まで記憶しているというから驚きだ。
私は陰で”すすきのの林家ぺー”と呼んだ 笑
そんなA店長に話を聞くと「コツは気合だ」という。
今時の若者が一番嫌いなアドバイスが飛んできた 笑
もう少し食い下がると、A店長は一冊の手帳を見せてくれた。
その手帳には、お客さんの名前がビッシリと書かれていた。
A店長は、元来記憶力がいい方だったらしいが、
毎日営業終わりにその日来店したお客さんの情報を事細かに手帳に書き込んでいるという。
名前と席(カウンターかテーブルか)、お連れの人について、飲んだ酒、etc
それを閉店した後のド深夜に一人一人思い出しながら書き込むという。
お客さんの情報にくり返しくり返し触れることで、記憶に定着させている。
生まれもった記憶力の良さと組み合わせれば、まさに「鬼に金棒」だ。
A店長は、現在は会社を独立して自身のBARを運営している。
系列店A時代のお客さんも多数来店しているそうだ。
2人目 コミュ力の高いJ店長
2人目は系列店Jの店長。
J店長は、系列では最年長だが飛び抜けて明るく、幅広い教養から生まれる軽快なトークが武器。
J店長がカウンターに立つと、その場はショータイムと化して手がつけられない。
それでいて、系列内で随一のカクテル職人という一面もあり、お客さんとスタッフともに信頼が厚い。
そんなJ店長は「常連さんか一見さんかなんて関係なくない?」という。
J店長は、そのコミュニケーション能力の高さから初めてのお客さんと打ち解けるのも早い。
なのでJ店長側が覚えていなくても、まるで常連さんかのように接すればたいてい喜ばれるという。
私がJ店長と一緒に働いた時、
J店長はいつものようにカウンターの常連さんと軽快なトークをしていたかと思ったら、私をさりげなく裏に呼び出した。
裏の厨房に呼び出され、表に聞こえないよう小声で「あの端のお客さん、名前なんだっけ」というから驚きだ。
たまたま私は名前を覚えていたのでそれを伝えると、また軽快な足取りでカウンターに戻っていった。
たとえ名前が出てこなくても、お客さんの前では一切表情に出さないから本当にすごい。
とはいえ長いバーテンダー経験から、実際に覚えている常連さんの数も多い。
そのことに関しては、逆に「例え常連さんでも、親しき中にも礼儀あり」と、
接客が砕けすぎないよう常連さんにはあえて、覚えていないお客さんと同じように接することを心掛けているそうだ。
J店長は、現在系列店を統括する役職に就き、複数店舗を駆け回る大車輪の活躍をしている。
・覚えていないことを表情に出さない。
3人目 人が好きなD店長
3人目は系列店Dの店長。
D店長は、私の直属の上司にあたり、バーテンダーとしての基礎技術から本を読むこと、ブログの運営(当時はやらなかったけど)まで、生きるのに必要なスキルをたくさん教えてもらった。
D店長は接客のことをよく読書に例えていて「お客さん一人の話をじっくり聞くことは、自伝小説を一冊読むのと同じことだ」と言っていた。
同系列内での勤務年数は全スタッフの中でいちばん長く、それだけに顔見知りのお客さんも多い。
そんなD店長は、お客さんの顔が覚えられない私にこう話した。
お客さんは、自分が覚えられていないとがっかりした表情をする。
それに気づくと、覚えていなかった自分の不甲斐なさにバーテンダー自身も傷つく。
けど、そういう時も「縁がなかった」と切り替えるしかない。
万が一、もう一度来てくれた時は、その時また頑張ろう 笑
人の縁というのは不思議なもので、顔をみた瞬間に自然と思い出す人もいれば、頑張って思い出そうとしても名前が出てこない人もいる。
次のご縁を逃さないためにも、縁がなかったことにいつまでもクヨクヨしない。
ネガティブなことに時間を費やすのではなく、次の出会いに向けて時間を費やすことを、D店長は教えてくれた。
D店長は系列一のプレイボーイでもあった。
もしかしたら恋愛も同じように考えていたのかも•••?笑
私の結論
以上が、お客さんの顔を覚えられない私への3人の店長からのアドバイスです。
簡単にまとめます。
2. 常連さんと一見さんを区別しない。覚えていないことを表情に出さない。
3. 縁がなかったと切り替える。
私は3人の店長からのアドバイスをもとに、実践に移しました。
①手帳作戦
まずはA店長の手帳作戦。
手帳を一冊購入し、閉店後にお客さんの情報を書き込んでみました。
最初は、その日一日を振り返ることに楽しさを覚えましたが、問題はすぐに起きます。
問題1 特に週末は来店するお客さんが多く、閉店後の段階で思い出せないことが多かった。
問題2 仕事終わりに飲みにいくと、手帳を書く時間が取れない。
問題3 そもそも日記なども3日坊主に終わることが多かったため、続かない。
頑張りはしたものの、手帳作戦は結局1ヶ月で終わってしまった。
②NO区別作戦
次にJ店長の常連さんと一見さんを区別しない作戦。
来る全てのお客さんとはじめから気さくに話すことにしました。
私がこの作戦をとるとコミュ力の低さが露呈して、一見さんには怪訝な顔をされ、常連さんには違和感があると笑われる始末。
その上、そもそもが人見知りという性格もあり、毎日の営業が100倍疲れる。
結局この作戦は、明るいキャラクターとコミュニケーション能力ありきだと知り、
自分には向いていないとすぐに辞めた。
③ご縁作戦
最後に、D店長から受けたアドバイスを心に留めることにした。
この作戦は、心構え一つで完了し、普段どうりの営業をしながら行うことができる。
その反面、今までどうり覚えていないこともあるし、覚えていないことがお客さんにバレるとがっかりされることもある。
そういう時はバーテンダーのメンタルにもグサッと刺さるが
「申し訳ない、ご縁がなかったようだ」と切り替えて、何事もなかったように接客を続ける。
むしろこの作戦のすごいところは、ご縁のあったお客さんをより愛おしく思えることにある。
2回目のお客さんに「〇〇さん、今日もお仕事終わりですか?」とか「前飲んだ□□はどうでした?」とか、自分が覚えていた時はそのお客さんのことをより好きになる。
覚えられなかったお客さんというネガティブな事に囚われるのではなく、
覚えていたお客さんをより大事にすることで、お店全体が自然とポジティブでいい雰囲気に包まれる。
いい雰囲気のお店だと、たとえ一回で覚えられなかったお客さんでも、もう一度来てくれる確率が上がる。
何度か来店してくれて覚えるチャンスが増えると、それだけお客さんのことを覚えられる確率も上がる。
ご縁作戦では、こういったポジティブなループも夢ではない。
まとめ
今回は、人の顔を覚えるのが苦手な人がバーテンダーとしてやっていくためにどのような対策ができるのかについて書きました。
私の場合は、D店長の「ご縁を大事にする考え方」がイチバン自分に合っていました。
皆さんはどの方法がイチバン自分に合っていそうでしょうか?
私が系列の3人の店長に聞いた対策方法をまとめます。
→その日来たお客さんの情報を手帳に書き込む。
② 性格の明るい人(J店長)
→常連さんと一見さんを区別しない。覚えていないことを表情に出さない。③ 上記のどちらでもない人(D店長)
→縁がなかったと切り替える。覚えたお客さんをより大事にする。
もしかしたらバーテンダーだけに留まらず、人と関わるさまざまな職種の人が実践できることかもしれません。
この記事を参考にして、人の顔を覚えられないコンプレックスを抱えている人が少しでもラクになり、ポジティブな雰囲気のBAR(職場)が増えることを願っています。
以上です
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